形ある物
 祖母の物と思われる櫛、笄が箪笥の底にあったはずだった。それが見えなくなって、かなりの日数が経った。綿密に探したがない。だれともわからないのに、だれかが持っていったかと疑心暗鬼。

 珊瑚も鼈甲も使ってあるのになどと、ロクでもない考えが浮かぶのが常だった。このごろ、ようやく「形あるものは必ず滅す」と針仕事をしながら母親が言っていたことを思い出している。

 まさにそのとおり。なぜ気がつかなかったのか。いまさらながら己の内部の未練、貪欲をおぞましく思った。

編集 きょん2 : 良い思い出素敵です。幾つになっても母良いですね〜思い出は宝です。
編集 ペン : こうした物は物質的価値より精神的に価値が高いですよね。心の宝は決して壊れない・・思い出を大切になさって下さい