「薄月夜 花くちなしの 匂いけり」子規
8時前にクライアントが来たときには珍しくすべての作業が終わっていた。確認してもらいOK。奮闘を讃えあい、おひらき。同時進行だったが、ほぼ完璧なものになった。今夜の時点では言うことなし。明日から古河にアタマと心を切り替える。一本締めの呼びかけをメーリングし、スタジオを出た。六本木の街は6月の半ばだというのに5月の夜のような涼しさで、火照った気分にちょうどよかった。体力と気力が残っていれば、そぞろ歩きしたいような夜ではあるが、気を緩めるとぶっ倒れそうなので家路を急ぐ。ま、われながら、よくやった。風呂に熊野から届いた夏みかんを5個ぶちこんだ。家じゅうに蜜柑の香りが充満している。十四夜。月は見えずとも、月夜である。テレ朝通りでタクシーを待っているとき梔子が匂った。目の前のヒルズが醜悪に見えるほど、ひっそりと白い一重が匂っていた。