いざ、立ちませい。
二時間ごとに目が覚めた。ホットチョコレート、ホットミルク、カルシウム錠剤と試しながら断続的に朝8時までベッドに。8時ジャスト。起きた。神経が昂ぶっているのが手に取るようにわかった。体の周りの空気が電気を帯びたようにぴりぴりしていた。お湯をはり、菩提樹の粉末を散らす。髭を剃り、髪を後ろに撫でつける。オールバックはずいぶん久しぶりのこと。飯を食い熱いコーヒーで完璧に覚醒。見直す。《砂漠緑化》のNGOグループをウエブでチェックし、モンゴル周辺の連中を見つけ参考資料1に追加。さらにエピローグ用に松居慶子の《DeepBlue》をリストアップ。ウエブのアルバム写真と10年間の消息を転記。メモページを2枚加え、表紙込みで21ページの企画書に仕上げた。
いま渡辺が大車輪でセットアップ中。ついでだから久しぶりに濃紺の綿テープで製本を頼んだ。万全。ここまでMARVIN GAYE《what's going on》をエンドレス。1時にイチローと待ちあわせているので、出がけに池上本門寺にでも寄って石段の下から願掛けしていこうと思う。このさい神でも仏でもいい。すがれるものには何でもすがる。きのう大阪を往復してしみじみ感じた。この国は色が貧しいのだ。モノが余って食うに困らず、空虚な豊かさに満ちていながら、どこまでも寒空のような思いが濃すぎる。新幹線のぞみの満員の車内を埋め尽くしたダークスーツの群れは、日経を読む奴隷の群れのようだった。見えない足かせというのがいちばん始末に困る。あの貧しさを共にしながら、どこかに風穴を開けたいと思った。プレゼンの勝ち負けはもうどうでもいいと昨日まで考えていたが、新大阪のホームで夕日を見ながらのぞみを待っているときに、ふと勝ちたくなった。

   《いちばん大切にしている人
   どうしてもやりとげたいと願う仕事
   忘れてしまいたくないすてきな時間
   めくるめくような明日への予感
   あなたという人をめぐりいろどる
   ほとんどすべてのできごと、想い、モノやコトに
   あざやかなカタチを吹き込むための力を
   私たちはイメージング・テクノロジーと呼ぶ》



こいつに日の目を見せたいと、痛烈に思った。で、願をかけた。茶断ちをしたいところだが、べつだん茶を嗜むわけでもないので、いまいちばん欲していることをしたいと感じていることを24時間、断つ、と決めた。で、現在実行中。昨夜から今にかけて、まことに修行僧のような時間の過ごし方を続けている。プレゼンが2時からだから、3時過ぎに終わって、イチローと反省会でもしているうちに4時30分になるだろう。そこでちょうど24時間。乾いて乾いて干からびそうだが、守りきれれば、おれの勝ち。満願成就となるはず。

秋と書いて「とき」。17歳の頃の秋は、今日のように胸が騒ぎ、体が踊りだすような毎日だったことを思い返している。隊列を組ん歩を進めたらで引くことを知らなかった秋があった。9月30日にジ・アースの周囲を白河の提灯祭りの一統が不退転のすり足で進んでいくのを見ながら、あの秋の頃を思いだしていた。


あと一時間で家を出る。
突破あるのみ。勝利あるのみである。



星菫派、陣を払う。