十一年ぶりに
十一年ぶりになる、珍しい男とさっきまで一緒だった。渡辺雅史君。ビエナを撮った頃に電通テックで制作進行をしていた、彼。きのう連絡があり、蒲田で。音楽系の仕事をしたいと言っていた彼が、別の会社で、希望通りの仕事をしていると笑顔で報告され、ぼくが寄与したわけでもないのに、なんだかすごく嬉しくなった。その「ビエナ」で、先月最新作を撮ったんだよな、と思うとひとしお。彼と撮ったビエナで起用したのは鹿角さん。仕草のきれいな人だった、とあらためていくつかのシーンを思い浮かべた。別れて、もらった名刺に「取締役プロデューサー」と書かれているのを読み、さらにセンチメンタルに。日暮れに薄暮シーンを撮ろうとテンパっているときに、ちよっとしたことで爆発したことがあった。持っていたトランシーバーを取り上げ、地面に叩き付け、壊した。怒りがマグマのように体内からこみあげ制御不能になった。その夜、宿の玄関先で深夜に一時間くらい話し込み、翌朝発熱…そんなこともフラッシュ。少し太って貫禄も出た渡辺雅史君は、そんな記憶をおくびにも出さず、とてもにこやかに話をしていた。別れて、いつもの公園でタバコを一本灰にした。冷えて来た秋の夜風が、みょうに心地よかった。ふしぎな夕になった。