メモ8.1
冒頭は、ぜひとも、夜。
密林を踏み分けて行くイメージにしたいということ。
闇のなかに異なる複数の時が流れていく。
時代の闇に沈んだ遺跡が、その密林の先から立ち現れてくる。
あるいは垣間みえはじめる。
正確には、「尊顔」が。
あるいはそのふしぎな笑みの一部が。
回廊のレリーフの一部が。
バイヨンのシルエットの一部が。
不安定な焔を当てられたように
樹林の密生の間に見え隠れする…
あるいは探検者がかざす松明の陽炎のゆらめきごしに
不確かでありながら紛れもなく存在するものとして
おぼろげに浮かび上がる…
聞こえてくるのは、探検者の息づかい
濃密な下草を踏み分ける靴音
高まる鼓動
甲高い夜の猿の啼き声
巨大な葉擦れ
遠近感を強める蛙の合唱
遠くから囁きのように聴こえてくる
古代クメール語で発音される「バイヨン」の呟きの群れ
これらの「気配」の中に浮かび上がってくる。
と同時に複数のコトバの群れも。

会場に林立する幟は、このとき密林の巨大な生命儒群でもある。