チョッちゃん★★★★
石井宏著/草思社刊
睡眠薬がわりにと思って買った放浪犬の話を読みはじめたらとまらなくなり、最後まで。どのエピソードも、気高くつつましやかで、底の知れない深さがあり胸を打つ。動物は、しかしときに人知を軽々と越えた聡明さを感じさせることがあるが、虫好きの変態にはわからねえだろうな。チョッちゃんが子どもを育てるために胃袋をカーゴにしたこと。3匹の仔犬を時間をおいて連れてきたくだり。二匹の仔犬たちがもらわれていくときの奇妙な静けさ…凛とした犬の親子の話を読んでいくうちに、興奮してきて、犬でさえここまで賢いのにと、ため息が。誰がどう見てもすぐれた状態のものを、言葉巧みに(見え見えなので本人だけがそう思っている)誘導し、自分の持ち込んだものだけを使わせようとする、いつもながらの女々しい(いまどきだと男々しい?)せこさを発揮しまくっている虫好き男の声を背中で受けながら、こいつはいつか誰かに刺されるな、と思った。虫好きが虫けらのごとく…。そう感じたら、猛烈な吐き気がぶりかえした。顛末である。経緯である。