塩漬け
6億年の塩をバスタブにぶちこみ、20分。髭を剃り、鼻毛をカット。塩をすり込んだまま、上がる。台所で飯を茶わんによそい塩を振り水道水で満たす。立ったままかっこむ。木刀を部屋に置かなくなって久しいが、今夜は、素振りしたくてたまらない。いちばんでかい包丁を持ち、50回振ってみる。少しも気は晴れず。コーラの瓶でも窓から放り投げようと探したが見つからず。外気3℃。さっきまで雪がぱらついていたのだ。吹雪せり窓の外にも情にも…と福島さんなら歌ったのだろうが、おれは歌を知らず。誰をと言うわけではないが、ぶった切ってやりたいという気分がおさまらず。何をと言うわけではないが破壊しつくしたいという欲求がとどまらず。肉体にまぶした塩と体内に飲み込んだ塩で、このまま塩漬けになっていたい。おれに何をさせたいのか。何をしろというのか。なにができるというのか。向こう傷も背中の傷もない。くそつまらねえ落とし穴に引っかけられた。足だけではなく、体まるごとおさまる穴にあっけらかんと嵌められた。問題はただ一つ。抗う術が、どこにも無いこと。