興醒め
仕事をするようになってジャスト16年経過。途中で代理店に降ろされたこと、一度。ただしこのときはクライアントの支持で復活。仕事の途中でいやになったことは数えきれないが、放棄したことは一度もなかった。買われた以上、それは最低限、守るべきことなのだと考えてきた。「男芸者」として渡世していく上でのルールだと決めていた。だから、それは違うなと思ったときにも最終的にはスポンサーの意向を受け入れてきた。それでも出来は相手の要求水準は軽く超えてきたと思う。

さっき、とつぜん、切れた。
切れる、などというたわ言が自分に発生すると考えたことはなかった。夢にも思ったことはない。

にもかかわらず、唐突に、糸が切れた。
張りつめていた糸でも緊張でもなく、ただ、こんなくだらねえ時間を過ごしていることに何の意味があるのか、わからなくなったのだ。

怒りが爆発したのではなく、逆だった。


どうでもいいじゃねえか、という
自分の声に気づいたのだと思う。


地下を出て、どうすればいいのか相談しようとしたが、連絡がつかず、あきらめた。いやけがさしたことを相談しても意味がねえな、と思い渡辺の車に乗った。


あれもこれも、どうでもいいなと今夜は思う。興醒めである。