《ペイ・フォワード》★★★★
「暗闇に置いていかないでくれ もう君なしでは生きられない」とケビン・スペイシーに言わせたのにはさすがに驚いたが、ミミ・レダーの女性ならではの演出力とも感じられた。さらにうならされたのは少年を死なせたこと、誕生日のロウソクを吹き消した後だからもう手遅れだと語らせたこと。性差が問題とは思わないが「女性的な」と言えば近いか。このしなやかで強さを備えた視点を「男性的な」世界は持ちえない。
ER緊急救命室がスタート時に誰の力によってあのトーンとテイストを獲得したのか、ミミ・レダーの《ペイ・フォワード》を見て納得できた。M・クライトンの雑駁な小説スタイルにもスピルバーグの能天気な映画作法にもそぐわないものを吹き込んだのがミミ・レダーであることがよく理解できた。ERはさておき、《ペイ・フォワード》でのミミ・レダーはさらにエンディングで信じられない映像を用意している。少年の家の前に集まる無数のキャンドルを持った人たちのラストシーンは、映画でなければ絶対に成立しない世界を見せてくれる。美の成熟と退廃を知らぬアメリカは病んでいながら、なお底抜けの若さと力を備えていることを、ミミ・レダーはつきつける。ハリウッド、やるもんだ。
ラスト直前までの陳腐さを、大胆な急展開とエンディングのシークエンスでみごとに大人の物語に仕上げている。
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