「どうしても話しておきたいこと」6.1
ある若い知り合いから転職の案内が届いた。数年前に一緒に仕事をしたときから、手元においてみたいな、と夢想したことのある人である。十五年余り仕事をしてきてなんどかこいつと組んでやってみたいと想った相手がいる。そんな一人である。
個人的に話したことは一度もなかった。ただ一つの仕事をしただけだった。その仕事への向かい方に魅かれるものがあったにも関わらず、行動を起こせないまま数年が過ぎた。そして転職の案内。
自分に余力があれば、ぜひ一緒に仕事をしてみたかったにも関わらず、そのチャンスが消えたようだ。自戒をこめてその人に出したメールをコピーしておく。
もちろんその人は女性である。

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「どうしても話しておきたいこと」6.1
まず、おめでとう。
君の才能が生かされることを強く願います。



京都の仕事を一緒にしたときのあふれるような情熱が
あの環境で死んでいるのを哀しく思っていました。

実現しようと志したものだけが、
達成したいという想いを抱くものだけが、
いつか成果を手にすることができます。

しかし、
魚は水を得てはじめてその泳ぐためのヒレの存在に気づき、
鳥は風を得て羽ばたく愉しさに出会えます。

何になるのか、と尋ねたとき
「ディレクターをやってみたい」と答えたことを
よく覚えています。
いつもオフィスの電話に出ている声を聞きながら
苦々しく感じていました。
渡辺君に「彼女を引き抜けないかな」となんどか
こぼしたことがありました。
ぼくの仕事の進め方が下手で赤字つづきの我がオフィスでは
しかし残念ながら君に声をかけることができなかったけど…


どうか真っすぐに才能をのばしてください。
ぼくは君の豊かな可能性と深い想いを信じる者の一人です。
仕事の上で困ったり迷ったことがあれば
いつでもどんなときでも頼っていいよ。
ぼくの心にゆとりがなく、気になりながら声をかけずに
数年が経過してしまったことをとても悔やんでいます。


こちらの近況は以下のURLにあり。
ときどきのぞいてみてください。
http://eclat.gaiax.com/home/torum
http://www.m-circus.com/


君からの挨拶を読み、
自分の胸の中に沈んでいた記憶を引き起こしながら
このメールを書いています。
数年の時間が経っているので、あるいはぼくの思いは
的外れなのかもしれません。
でも、どうしても伝えておきたく、率直に書きました。

間違っていなければ、
君はとても若いたいせつな友人の一人です。
京都の仕事を仕上げたrstudioで涙を見せたその日から。

では。