雪祭り前夜
午後五時。舘岩村湯の花温泉、末廣旅館二階竹の間にて。
一時半に那須塩原駅で渡辺君にビックアップしてもらい、塩原経由で峠越え。
このあいだ知った田島のトンネル手前の横川というそば屋に寄って「田舎けんちん定食」にありつく。やっぱりんまいっ。群を抜くうまさである。辛味大根の冷たいつけ汁と熱々のけんちん汁に交互にひんやりした手打ちさばをくぐらせて食べるこの方法は特許モノだな。
ついでに蕎麦粉でつくった薩摩揚げというのをやいてもらったら、これもまたうまいっ。めんどうがる女主人を説得して東京に送ってもらうことにした。
水のうまさ、空気の凛々しさがきっとこの味をつくるのだ。東京のふやけきった空気の下で繰り広げる蕎麦の名人ごっこは、しょせん絵空事である。こういうものを体験すると、また、もういちど料理の仕事にとりくんでみようか、という気にさせられる。

現場ではスタッフたちが勢ぞろい。
明日からに備えてオープンセットが着々と完成しつつある。雪の状態も昨年に比べれば圧倒するばかりである。
宿にはいり、さっそく風呂に。

あがって涼んでいたら二番風呂で飛び込んできた男を見て驚いた。
スバルのレガシーロケの頃に一緒だったキノコ好きの照明マン井上君だった。
世間は狭い。

いつもの竹の間に座り、窓を開け放し、雪の村の夕景色を眺めながら体を冷ましていると、「帰ってきたな」そんなふうに思えた。

空はまだ明るさが残っている。
会津は静かな夕焼けである。

明日から、我が祭りがスタートする。