「柿の実」
ここ数日ぐっと冷え込んだおかげで、関東の平野部でも木々の色づきが増してきました。
近所にある比較的大きな公園にも、色とりどりの木々のにぎわいに誘われて散策に訪れる人が増えたように思います。

 都会で見かけることはほとんど無くなりましたが、昔は庭先に柿の木を植える家が多く、農村では一軒に少なくても一本の柿の木が植えられていました。

 昔は、柿の木にも霊魂が宿っていると考えられていたことや、柿の木は折れやすいこと、そして子どもが木登りをして落ちて怪我しないようにと、戒めの意味で「柿の木から落ちたら三年しか生きられない」と言われたそうです。

 柿の木のそばには実をもぐための竹竿などがありましたが、それでもやはり、たわわに実った柿の木は子ども達にとっては格好の木登りの対象でした。

 柿の木を見ると、子どもの頃、周りで遊んでいたことを盛んに思い浮かべたりしますが、そんな地方の農村の風景も現在は高齢化が進み、実をもいで食べる人もおらず、たくさんの柿の実がすずなりとなって枝がたわんでいますね。

 ところで、柿の実は最後の一つあるいは数個を必ず残し、全部もいではけないという「木守柿(きもりがき)」の風習があります。理由は、自然の恵みを人間が独占するのではなく鳥などに残しておくため、さらには柿の霊が再生し翌年もたくさん実を結んでくれることを霊界の使いである烏に託すためであっ
たと言われます。

 自然へのいたわりと畏敬。一つだけ残った柿の実があたかも木を守っているかのように見えたものです。