ジャーナリズムが<底辺>に関心、語り部が転居、彼女の生命も限りすくなく 山崎朋子『サンダカン八番娼館』
 天草農民の貧困。それは行を読み進むごとに、厳しさを増す。

 「(おサキさんは)朝から水ばかり飲んでおって」
 「日が落ちて晩になっても唐芋のしっぽ、ひとすじ口にはいらんこともあった」。
 生みの母親と一緒に居たときでも味わった、生活。
 
 再婚した母と別れて子ども三人だけで暮らすようになってからは、更にひどく。そう続く。
 「冬になるじゃが、麦櫃も唐芋の桶もからっぽになって」
 「家に畳ちょうもんがなかったけん、山で枯れた枝を拾うて来て火だけはたいたが」
 「兄妹三人、空き腹かかえて板敷に坐っとると、頭に浮かんで来るとは食いもんのことばかりだったぞい」。

 ジャーナリズムが<底辺>に関心、語り部が転居、彼女の生命も限りすくなく 山崎朋子『サンダカン八番娼館』 筑摩書房1972年