サンダカン
 実際に聞き取りをして4年。公刊を躊躇しつつ、思いめぐらす点が少なくなかった。
 著者は末尾に示す。3点。

 1)マスコミの中に<底辺指向>が流行し、様々な照会がかさなるうち、「(作者自身の)黙秘がどこまで有効なのか疑問に思えて」。
 2)話し手の「おサキさんが転居、外部の人に訪ねあてにくくなった」
 3)そのおサキさんが昨今とみに弱ってこられ、「彼女存命のあいだに、彼女の人生記録を書物として贈りたい」。
 
 聞き取りは1968年。1932年1月7日生まれの著者にとって56歳の時。
 『サンダカン八番娼館 ―底辺女性史序章―』は、1972 年に筑摩書房から発刊されている。
 「ともに生活しながら、海外売娼婦の生の声を、はじめて定着させた」
 
 文庫本のカバーには、そうした記載。
 「聞き取り」「再話」。その手法としても注目に値する一書。
 山崎朋子著『サンダカン八番娼館~底辺女性史序章~」1975年 文藝春秋社。

 低生産地に高額貢租 増え続ける移住人口 近世・近代に貧困の極み 天草女性が主役『サンダカン八番娼館』