霧繭
 真骨頂は北方に生きる人物像 「霧繭」(桜木紫乃著『氷平線』所収作品)230128

 桜木作品の真骨頂は、北国に生きる人物像。それも男と女の出会い、情愛、それぞれの背景。
 ここまで、湿原=二股だ、結露だと申すも、それは舞台であり、冷酷な自然という環境であって、物語の主体ではない。
 本州の伝統文化を示すか、一字で「繭」。
 北方性の気象を象徴するようにも見える「霧」。両者がむすびつく、『霧繭」は桜木氏のデビュー作『氷平線』に収録されている。

 腕の良い和裁師、島田真紀が登場する。呉服店が依頼してくる和服を仕立て、依頼者の<夢>を実現する、地味ながらも自立した女性像。
 すこぶる腕が良い。振袖を一夜で仕立て、師匠の検分をうけて、呉服店に届ける。聞けば18歳からこの道を選び、今や20年。
 38歳の妙齢にして、師匠が即座に「OK」を出すほど、信頼度が高い。自立して、生きる手立てをもつ女性。

 選書してくださった、なおみさんは、別な会合があってペーパーを提出してくださった。
 紹介を読ませていただき、「いつの時代を対象とする昨比?」。そこが話題になった。
 1)成人式、こどもの入学式、卒業式に、自前の和服を着用して出席する時代、
 2)つまり発注をうけた呉服店が、ネットワークを組む、<縫子さん>とされる仕立て屋さんに委託するシステム、
 3)それが海外にではなく、地域に存在した時代。

 繭に象徴される絹織物の本州文化。それを継承する片鱗が巷に用意され、身近なところに腕の立つ職人が目にとまる、時代。
 そこに生きる女性が、海霧につつまれることの多い亜寒帯気候の「霧」のマチ。その舞台、彼女の目のまえにあらわれるのであろう、男性。
 そこで繰り広げられる一話。28日は「そこは読み切った方のみのお楽しみ」であった、が。後日、『氷平線』を話題に読書会があるのかも。