「落ち鮎(あゆ)」
 「アユ」と言えば、旬の夏にこそ味わう魚、というイメージが強いようですが、晩秋に向かうこの時期、各地の河川では、地元の人々が、腹に卵を抱えた子持ちのアユ(落ちアユ)に舌鼓を打っているそうです。

 アユは海に近い河口で生まれ、一度海に出て稚魚となり、やがて春になると川の上流へ向かって上り成長します。
秋風が吹く頃になりますと、産卵するため再び海を目指して川を下り、河口付近で産卵します。

 落ちアユとは、この秋の産卵期に川を下ってきたアユのことです。
アユの名
の由来には諸説あるようですが、秋に川を下る様子から、「落ちる」の古語である「あゆる」が転じてついたとも伝えられています。

 「落鮎(あゆ)の身をまかせたる流れかな」(正岡子規)
とうたわれるなど落ちアユは秋の季語ともなっています。

 炭で塩焼きにした子持ちのメスの落ちアユはプチプチとした食感が広がり、春や夏のアユがさわやかで若々しい味が魅力なら、こちらは円熟味のある大人のうまみといったところです。

 秋の産卵が終わると死んでしまうアユ、年魚と呼ばれる由縁ですが、落ちアユの味わいには、その短い一生分のうまみが凝縮されているようです。