「極楽浄土(彼岸)」
春彼岸の今、「暑さ寒さも彼岸まで」との言葉どおり、ずいぶんと春めいてきたように感じます。

 明日の春分の日は彼岸の中日。日が少しずつ長くなるこの日を境に陰陽の気も入れ替わるとされています。
また、ほぼ真東から日が上り、ほぼ真西に日が沈む春分は、古代中国では「龍、天に昇る」とされ、春の気もいよいよ盛んに
なってゆきます。

 話は変わりますが、昔の書物にこんな話がありました。

 一人の旅人が東から西へ向かって歩いていると、突然前方に業火渦巻く火の河と激しい流れの水の河があらわれ、後ろへ戻ろうとすると盗賊や獣が襲いかかってきました。
旅人は窮地に陥りますが、西へ延びる白い細い道を見つけま
す。

 河に呑み込まれずに白道を渡りきれるかどうか分からず立ちすくむ旅人に、「心を決めてその道を渡りなさい。信じなさい。
河を恐れることはない」と声がします。

 その声に勇気付けられ旅人は西に進みますが、今度は背後から「引き返しなさい。その道の先には何もない」との声がします。しかし旅人はその声に耳を貸さず白道を渡りきりやがて西岸に辿り着きます。

 この話で東は現世(此岸)、つまり今いるところ。西にあるのが極楽浄土(彼岸)で旅人の目的地。怒りや憎しみで燃えたぎる火の河、何もかも流しつくす欲望の心をあらわす水の河、そして背後の声は煩悩です。

 そう言われてみればたしかに、目的地へ辿り着くためにはこのような道を通らなければならないような気がします。