「富有(ふゆう)柿」
 「富有(ふゆう)柿」は皇室献上品しとしても知られ、「甘柿の王様」との呼び名を持ちます。
そんな富有柿も絶品ですが、渋柿を焼酎で脱渋して甘くした「不知身(みしらず)柿」の冷たくてやわらかな甘さも美味で、どこか懐かしさのある味わいです。
ちなにみこの「不知身柿」も皇室献上の一品です。

 今では見かけることはほとんどありませんが、昔は庭先に柿の木を植える家が多く、農村では一軒に少なくても一本の柿の木が植えられていました。
高齢化がすすむ地方の農村では、実をもいで食べる人も少なくなり、たくさんの柿の実がすずなりとなって枝がたわんでいます。

 昔は柿の木にも”霊魂”が宿っていると考えられていたことや、柿の木は折れやすいこと、そして子どもが木登りをして落ちて怪我でもしないようにと、戒めの意味で「柿の木から落ちたら三年しか生きられない」と言われたものです。
柿の木のそばには実をもぐための竹竿などがありましたが、それでもやはり、たわわに実った柿の木は子ども達にとっては格好の木登りの対象でした。

 柿の実は全部もいでしまわず、最後の一つ、あるいは数個を必ず残すことが決まりのようになっていました。「木守柿(きもりがき)」という風習です。
理由は、自然の恵みを人間が独占するのではなく鳥などに残しておくため、さらには柿の霊が再生し来年もたくさん実を結んでくれることを霊界の使いである烏に託すためであったと言われます。

 自然へのいたわりと畏敬。一つだけ残った柿の実があたかも木を守っているかのように見えたものです。
与えられた恵みに感謝し、他者へもその恵みを残しておく風習は、巡りめぐって自分のためでもあります。