Hamster
 親とは余りハムスターの事を話題に出さないようにして居る。
 一度ハムスターについて話し出すと、かつて実家で飼っていたハムスターが大暴れした事や雌同士だと思っていたハムスター達が実は雄と雌で見事に大繁殖してしまった事に話題が飛び、終には同じ檻で繁殖中の筈だったハムが番いの相手を襲って食べてしまった事にまで話が飛んでしまうのだ。
 そして、あのハム達を毎回考えもなしに買って来てしまってたのは誰だとか世話をちゃんとしなかったのはどっちだとか責任の擦り付け合いになってしまうのだ。
 ハムスター達を購入してたのは母である。「ちゃんと世話はするから!」と僕の反対を押し切り籠やら回し車やら餌箱やらを買ってきて嬉しそうにレイアウトしてたのも母である。
 だが、結局仕事が忙しい母はハムスターに決まった時間に餌をやる事が中々出来ず、餌やりや水・砂・藁の入れ換えは僕がよくかわりにやっていた。
 母も自分が世話をすると言い張ってハム達を家で飼う事にしたのは憶えて居るみたいで、あーだこーだと逝ってしまったハム達について言い合う内に大抵母は妙にしんみりした顔で「もっと面倒見てあげれば良かったね」と言い出す。
 ハム達の殆どは夜中になるとカラカラカラカラと回し車を回す五月蝿い奴等だったが、居なくなると矢張り寂しかった。中には回し車を上手く回せなくてカラ…カラカラ…カラ…と少しずつしか回せないとろいハムスターも居た。籠から逃げ出しどれだけ探しても見付からず、一日経った後に見付かった時には米糠を入れたビニール袋の中で一生懸命米糠をほうばってほっぺの袋をぱんぱんに膨らませていたハムも居た。人間が自分に近付く度に吃驚して動きが止まる臆病なハムも居たし、脱出した籠の傍でちょこんと座り込んで逃げ無かった不思議なハムも居た。

 最初にハムを「ホームセンターで目が合ったから」買って来た母は、あんなに愛らしい小さな生き物が共食いをするとは思っていなかっただろう。
 ある朝、いつもの様に籠にハムの様子を覗きにきた母は籠の中のハムの状態を見た後暫く落ち込んでいた。前夜迄は仲が良かった仲間の皮以外の全てを食べ尽くし、血で口や前足を真っ赤にした侭、籠の中に一匹だけ残ったハムが母に餌をねだったからだ。籠の中はあちこちに血が飛び散りそりゃもう悲惨だった。

 とことんハムについて話す内に必ず僕と母の話はハムの共食いの話に行き着いてしまう。
 矢張りハムスターの話題を親との話しに出すべきでは無いな。