夜に咲く花
 最近、自分がしているバイトの内容を吹聴して回る知人が出来た。
 正確にはその人は「知人」ではなくて、「友達」なのかも知れない。僕はほぼ毎日図書館でその人に会うし、その人はその人の友達に僕を「最近友達になった人」として紹介したから。
 でも、僕には彼女は「知人」であって「友達」ではない。

 彼女は会う度に、僕に今彼女が働いているラウンジでの仕事の内容を詳細に述べ、「水商売って大変よ〜」とのたまう。
 そりゃ、水商売は大変だろう。他の多くの職業と同じく、其の職業特有の苦労が付き纏うだろうよ。
 でも、チャイナ服着てカクテル作ってる彼女に「水商売が大変」と言われてもどうも僕には納得出来ない。
 それにバーテンのバイトをしている事を態々「水商売してるの」と周囲に喧伝して回る彼女の言動も理解出来ない。
 古い考え方なのかも知れないが、僕はお水のバイトをしている事は自慢にはならないと思うのだ。お水のバイトは精神的成長を大いに助けてくれるだろうが、其の経歴は正社員として就職する際や結婚の際の邪魔になる事もある。

 周囲の人間に「水商売してる」なんて知らせて回るのは決して賢い行動ではないと思うのに、今日も彼女は僕にバイト内容を事細かに報告してくれた。
 「ケイちゃんは水商売なんてした事ないからこんな話よくわからないよね」と言いつつも長々と自分の事ばかり話す彼女に、僕は毎回曖昧に微笑み返している。
 僕はお水のバイトをした事が無いとは一度も彼女に言って無いし、これから先誰に訊かれてもお水のバイト経験があると言いはしないだろう。