読む力 『源氏物語』
 読む力 日本人。『源氏物語』の番組で作家の瀬戸内寂聴(1922年生まれ)が能舞台で講演している場面を見る機会があった。

 瀬戸内氏は申される。
 徳島の女学校に入学後、図書館にあった『源氏物語』の与謝野晶子訳を手にとって読んでみたところ、「おもしろい!」。世に、こんなに楽しい本があったのだと、毎日、図書館に通った。

 「どうして、こんなにおもしろい本があることを、教えてもらえなかったのであろうか」。読むうちに無理もないと思うようになったと、する。

 主人公の女性をもてあそび、上手にわかれるさまが、そのまま教科書にのせておくわけにはゆかない。「しょうもないところが、あたりさわりなく載せられては、そのおもしろさが伝わるはずない」。

 話は訳本の経過に展開する。
 谷崎潤一郎の訳本。「谷崎さんはね、大学で文学を勉強した。それで、原文を忠実に訳し、しかも訳文の長さを原文の長さに揃えるということをするものだから、切れ目がない原文の忠実な訳は長くてながくて、たちまち眠くなる」

 円地文子さんがね、「大きな仕事をするからさ、そのために仕事場をもうけて孫、子と独立したわ」と申して、「私の住んでいるアパートに越してきたの」。「どうしてこのアパートに仕事場を?」と聞いたら、「あたながいるからよ」。
 「そうするとね、疲れると電話が来て、『お茶にしないかい』」、「『お茶を』というときは、淹れて持参するわけよ、お茶うけの菓子をそろえて」。

 「円地さんの訳はすばらしかったけれども、それが難しくて日本人はついて行けなくなった、読む力が確実に低下したのねー」。

 「(ノーベル賞受賞後の)川端康成が源氏を訳すことになってねー」。「仕事場のホテルの一室に呼ばれて、出かけてみたら『古注』がかたわらにあって、原稿もかきかけの最中(さいちゅう)」、「あら先生、はじめたのですか?」、「うんうん」。

 そうしたらさ、円地さんに聞かれてね。「ねー、川端さんが訳をはじめたとのうわさがあるが、『あなた、聞いていなーい?』と」。

 「見てきました」とは言えないから、「さー」。「言ったら、私、、殺されますよ」。するとね、「(ノーベル賞をもらって)甘い賞をもらってだらけているヒトの作が完成したら、『わたしは裸になって逆立ちしてあるいても良いわ』」、「60歳を過ぎた女性の逆立ち、そんなに誰も、よろこびませんよね」。

 円地が逝去。あとをうけて瀬戸内氏も役を開始する。「円地さんの訳が難解になるということは、やはり読む力の減退。これではと訳にとりくむことに」。

 宇治十帖の現代性を指摘し、アンドレ・ジェド『狭き門』は『宇治十帖』の理解のうえに書かれたのではと、その国際的広がりを述べている。6月6日、BSーTBSの放送からメモしておく、が。