親友
 僕の周囲にはある特定の状況下にだけ連絡を取って来る自称「真の親友」という輩がいる。
 其の特定の状況とは其の輩が恋人と分れた状況、若しくは恋人と喧嘩中である状況等を指す。
 
 彼氏と別れたばかりらしいお嬢さんから電話が掛かって来た。
 「あたしの話をちゃんと聴いてよ!」と大声で何度も言うから気付かれない様にスピーカーに切り替えて編物遣りながら話を聞いて相槌打っていた。
 そういう時だけ君は僕に電話して、そして直ぐ亦新しい男が出来ると音信不通になるんだ。
 
 新しい彼女に別れ話を切り出したばかりの野郎からの電話が今夜もあった。
 今度の彼女も相手から切り出した別れ話では無くて自分から切り出した別れなのだと言う。相手の女のコは別れたく無いと泣いて居たのだと。
 そうやって相手のコは彼との別れに涙を流して未練を断ち切り、完全に彼と決別して顔を上げてもっと先をより高みを目指して進んでしまうのに気付かないのか。短期間に何度も付き合いと別れを繰り返す彼が停滞している其の場から彼女達は羽根を広げて飛び去り、彼だけが取り残されているのに気付けないのか。
 「貴方どなたです?そんな人僕は知りませんよ。」関わりたく無い僕がいつもそう言って電話を切ろうとするのは唯の意地だけでは無く関わる事で齎される焦燥感に二度と触れたく無いからだ。
 
 「離れても親友だから。」「別れても親友である事は変わらないから。」
 だったら如何して君達は人との別れによる寂しさ喧嘩による苛つきやを感じた時だけ僕に連絡しようとするんだい。
 親友ってのは哀や怒だけでは無く喜や楽も分かち合うものだと僕は思っていたし今もそう思っている。