林玲子著『日本の近世5 商人の活動』
 林玲子著『日本の近世5 商人の活動』 シリーズ「日本の近世」、第5冊目は、「商人の活動」。
 木綿・醤油、三井・白木屋・大坂屋などの商人を軸に、江戸及びその近郊の庶民を顧客とする流通の広がり、流通が庶民と産地を結節してきた経過を示す。

 「遥かなり綿の道」「新旧商人の交代」「中央市場のメカニズム」「近世の商法」「ノレンの内側で」「商人と武士」「近代につながる新興商人」。

 「新旧商人の交代」。
 戦国から近世への移行期に、大名家が戦時を勝ち、城下建設に領主的特需をささえた商人があった。
 戦時に与えられた特権は、平時にうつり生活の向上に即して「大名貸」にのめりこむうち、「債務不履行」に巻き込まれ、没落の汚名をかぶる。
 時期は元禄・享保期ということになるのかもしれないが、延宝期(1673~)の時期で、すでに庶民に普及し始めた絹織物を手掛け、大名取引から市中取引に転じていく商人に視点を転ずる。

 「近代につながる新興商人」。
 綿もさりながら、江戸周辺の醤油を取り上げ、原料・蔵・樽を揃え、安定した供給をめざしつつ、西国から独自の商圏を江戸に組み立てた必然性を示す。

 冒頭に「近世の商人像」、末尾に「庶民層に新しい世界を開いた商品流通」。この抄訳が本書の意図を、端的に示す。
 北は青森から鹿児島まで、ほぼ均質な和紙、筆法、記載の伝統的様式、資料所在のありように、江戸時代が広範に展開する「流通」を通じ、庶民も、地域もむすばれる社会を展望する。そのうえで、「流通」を担う商人の時機をみる確実性、果敢にして遠路をいとわぬ行動、遠隔地間につちかわれた信用に注目する。

 いま期せずして、「遠路をいとわぬ」と書いたが、そこに江戸ー大坂間、伊勢商人や近江商人が背負いをベースに、江戸支店を軸にした商いに出張員商法に示される「陸路」に特化しているように思う。
 対極に日本海交易があり、「海路」輸送が存在したが、それは取引量の狭さを意識してのこと、か。(中央公論新社 1992年)