長谷川櫂著『松尾芭蕉 おくのほそ道』
著者は言う。
『おくのほそ道』は、「単なる旅の記録としてではなく、確固とした文学として書こうとした」と述べ、「虚実相半ばすることによって、芭蕉の宇宙観や人生観を反映した世界的な文学作品」、と(5p)。4章からなる。


最初は「心の世界」。
名句のひとつ「古池や蛙飛び込む水の音」。「蛙飛び込む水の音」は現実の音にして、「古池や」は、心の世界(古池)が開け、「言葉遊びの俳句」から「異次元なものが一句に同居して、(略)芭蕉の句に躍動感をもたらした」点で、画期的なものとする(14p)。

次は「時の無常」。
歌枕の地を訪ねるも、「時の無常を知る」ことに。歌枕は「現実に存在する歌枕」「歌に合わせてできた歌枕」「どこにも存在しない歌枕」(38p)があり、「想像上の名所」をどのように訪ねるかのジレンマにおちいることになる。

「不易流行」。
「不易」は「時が流れても変わらない」、「流行」は「時の流れとともに変わる」。歌枕で「時間の無常迅速を痛感」し、無常迅速(流行)と見える宇宙が実は永遠不変(不易)であること=宇宙観に気づいたという。

むすびは「かろみ」。
「かろみ」は「悲惨な世界を軽々と生きてゆくこと」(91p)「不易にたって流行を楽しみながら軽々と生きてゆくという生き方」(93p)とする。そして、その「かろみ」概念にゆきついたのは、金沢。その後、山中で「かろみ」の対となる「おもし」が浮上したのでは、とする(92p)。

芭蕉は日本文学の「巨大なダム」に位置するとする。「それより前の文学はいったん芭蕉というダムに流れ込み、その後また芭蕉から流れはじめる」(8p)、と。

(ヒドイ。楽天の欄の記載、ここであっというまに消えて復元できず)

芭蕉の俳論の形成と軌跡。まことにコンパクトに凝縮されているのいではないだろうか。(日本放送協会 2013年)。