田中優子著「江戸の色恋ものがたり」
 田中優子著「江戸の色恋ものがたり」。著者はTBS系列の番組でコメンテーターを務め、日曜日の朝のワイドショーに和服で登場する。
 略歴に「近世文学を研究」、その後は「美術、生活文化、海外貿易、経済、音曲、『連』の働きなどに拡がってゆく」と、紹介されている。
 関心はさらに、「中国文学を中心に東アジアと江戸の交流、比較研究などにおよんでいる」ということなのだ。
 研究者として東京で育ったのだろうが、研究姿勢としては京都型をおもわせて、一時代を多様な側面から位置づける点が注目されるところ。

 本書は「NHK知るを楽しむ」のテキストだが、案内人で落語家の柳家花緑は「恋も食も人生そのもの」と、冒頭に書いている。後編に「大江戸グルメ考」の、物語りがあるからだ。
 田中氏は書く「心髄は好色にあり」「あの人を射止める戦略」「浮気な結婚、まじめな結婚」「遊郭なればこそ」の4話。
 基底には、「江戸の文化の多様性と深さ」(8p)、「(江戸時代は)『色』と『恋』も別のものと考えていました」(9p)が、あるらしい。

 「『色』と『恋』も別」の世界には、男女のむすびつきが≪世継ぎ獲得≫であったり、≪家業繁栄の労働力≫であったりしたこと、か。
 但し、そう記載すると、「それは男性の立場」ということになるのかも。

 江戸時代は、戦国時代の世からの安定期。力をひろげ、力を維持することが前提の時代の男性と女性。
 理想と現実を埋めつつも、両方がならびたつ仕組み。それを多様性と言うのかどうかは、難しいところであるが。(日本放送出版協会 2008年)。