小泉武夫著「日本酒なるほど物語」
小泉武夫著「日本酒なるほど物語」。「酒は人類の作ったうれしい文化のひとつ」と、冒頭に述べている。
 酒の製造と飲酒の様式が大衆化する以前が意味深である。「稲作の神をもてなす飲料」(94p)とするところが、奥深い。収穫の神に収穫の神事と宗教的儀礼、酒が結合している。

 正月にしろ、正月の酒にしろ、日本人の生活は「神」をそっちのけで暮らし、呑んでいる。
 酔うことが目的になり、呑む意味や日本酒のうまさが問われることの不足している点は、さびしい。

 なぜ、そうなっているのか。著者は、長い日本酒と国民の関係を丁寧に記載する。酒の専門職人化は奈良、酒の銘柄は平安、麹と造酒の一体化は江戸。

 近代は酒への課税の酷が指摘され、密造酒の精製と取り締まりのイタチごっこを伝える。庶民の哀歓、酒への楽しみと執念を見る思いがする。
 醸造酒、蒸留酒とあるなか、日本酒には「度胸がすわり、勇気がわいて、命さえ惜しくなるようなところがある」とする(152p)。
 日本酒の可能性を示しているのかも。ほかに、白幡洋三郎・尼﨑博正「京都名庭こう見てよし!」所収。(日本放送出版協会 2006年12月)。