「けんちん汁」


  肌寒さが増してくるこの時期、身も心も温めてくれる料理にけんちん汁があります。

 けんちん汁は、大地の栄養を吸収した多種な根菜類や椎茸、豆腐、コンニャクなどを油で炒め、醤油で味を調えて作りますが、地方や家庭によって中に入る具材は多様です。
それ故、それぞれ固有の郷土の味、家庭の味として舌に記憶され、どこか懐かしい料理となっているのではないでしょうか。

 ちなみに、けんちん汁の名称の由来は諸説ありますが、古都鎌倉の精進料理に由来するという説が有力で、中国から招かれた高僧蘭渓が建立し、鎌倉五山(五大寺)の一つで日本初の禅寺である建長寺で食されていた精進料理が、”建長寺汁”と呼ばれやがてけんちん汁として広まっていったそうです。
 
 雑多煮のようなけんちん汁は“雑”な料理というイメージがありますが、実際にはけんちん汁のように多様な具材を一つの鍋で煮炊きして、煮え加減の程度を揃え、一つの椀として調和を持たせることは簡単なことではありません。

 美味しいけんちん汁は一つの椀の中にも心遣いが行き届き、その一品だけで身も心も温めてくれます。