藤の花 
そこへ行くと甘い香りがふわっと風に乗って
私の頬をとおり過ぎていく。

あゝやっぱりこの香りは藤の花だわ!
あの独特の強い香りが池の周りを漂っていた。

池には鯉が泳ぎ、
池の周りにずらりと植えてある藤の花が満開に咲いていた。

藤を育てゝいる人達の品評会も開催されて、
縁日風の露店も何店舗か有った。

私の足は自然と藤棚の有る方に向かい、
そこから下がる藤の花を見上げると遠い昔が甦る。

「藤は奇麗ね、お父さん!」幼い頃、父が作ってくれた
藤棚を見ては5月がくる度に喜んでいた。

春には藤棚をそして夏には葡萄が実り、
まめな父は植木も好きで四季の花や果実を作っていた。

父の作った藤棚は小さくて比較にはならない。
でも確かにあれは優しさ溢れる藤棚だと思う。

藤の花は花びらが小さくてふわっと飛んでしまうような
弱々しい感じがしても、
手に触れれば花びらに柔らかさはない。

急に強い風が吹いた時、藤の花びらが顔にふれ、
まるで小さなトゲを刺すような感触を受ける。

午前11時過ぎに出発し、家に着く頃は夕方になって
しまうほど歩いた。