風薫る五月 
朝から止むことはない春雨が静かに降り、
私は、近所の方に依頼された共襟を縫い付けていた。

法事に着る長襦袢を買うのは勿体ないから
衿だけを新しく取り換えたいらしい。

そこで首周りから胸元までの共襟を付ければ衿が新しく見えて、
何度か共襟を取り換えれば何年でも着用出来る。
共襟を付けるのは浴衣を縫うより簡単な事。

外を見れば雨が音もなくぽつぽつ小ぶりになって
樹木の若葉からダイアモンドのような雨粒が
ぽつんと光って落ちた。

雨粒は、若葉の上でゆっくり休みたいとコロコロ転がり、
しがみついていたのに風の力に負けてしまった。

私は、心にうつるロングアップの風景を追う。
強風吹き荒れる寒い冬、

春を呼ぶ紅梅や菜の花も散り、
満開に咲き誇った大好きな桜、
それも花筏となり海へ流れて消えた。

戻って来るかも知れない私の穏やかな日々、
しかし、もしやの期待はよく消え去るもの。

それでも昨日、満開の藤の花を心ゆくまで眺めていたら、
これからは風薫る五月がくると思えば胸がときめく。

土砂降りに合おうと歩いて行けば、
もしやの期待が戻ってくるかも知れない。