伝えていたいの
 『平成狸合戦ぽんぽこ』を見てました。
 生まれてこの方実際の狸なんて写真でしか見た事ない知人には、この映画は評判悪いです。
 「言いたいことがはっきりしない。」「いつ終わるのか曖昧。」「説教くさくて最後まで見ても面白くない。」、なんて事を言う人もいるけど、僕は平成狸合戦ぽんぽこが好きです。
 ぽんぽこを観る度に、最初は開発されていく多摩の山を前に住処を無くして行く狸の様子にしんみりし、化ける狸達の愉快さにわくわくし、作戦が全てしくじって開発が進んだ多摩で次々死んでいく狸達を見てまたしんみりし、最後に人間社会でしぶとく生き抜いていこうとしていく狸達を見てほんの少しほっとするのです。
 実際は狸の数は絶滅に近いぐらいにまで減少したであろうし、狸に化ける力はないのだろうけど、擬人化した能天気な狸達が希望を失っていく様子だけを見せ付けられてはただ哀しいだけで終わってしまう。
 環境開発事業への啓蒙を訴えているようで訴えていないこの映画は、最後がハッピーエンドなんだかそうじゃないのか判らない中途半端で終わっています。でも、中途半端だからいいのです。この愉快な狸が出てくる映画がバッドエンドで終わる映画だったら僕は二度と見なかったでしょう。

 僕は度々山が切り崩される、田舎の住宅開発地の近くで育ちましたから、道路で車に轢かれた狸の死骸も次第に形を崩して住宅地になっていく山も見て育ちました。映画を見ていると今はもうない地元の山林に思いを馳せてしまいます。
 幼い頃、僕が秘密基地を作ったり、山頂に登ったり、散歩に行くつもりで僕と家を出た飼い犬を連れ回して歩き回った山はもう半分が削られて宅地になりました。
 友達の家の庭に毎日餌を食べに来ていた狸達は、時折その数を減らし、道路に遺骸が転がっていた時もありました。

 高畑勲監督の作品は田舎者に訴える力があるみたいです。
 余り記憶には残らないけど、記憶に残り過ぎる映画よりはずっといい。