月を下さい
 「其処から月は見えますか?見えるのなら、あの薄っぺらい月が欲しいので下さい。」と久し振りに電話で話す相手に無茶を言ってみた。
 「いいですよ。貴方の為なら月でも何でもとって参りましょう。」と非常にさむい気障な台詞が返って来た。
 嗚呼、違うんだ。僕が欲した返答は無闇に浪漫を鏤めた台詞では無く僕の望みをにべも無く否定する返答だったんだ。今夜僕が見ていた月がいくら細く華奢に見えたとしても実際の月は周囲が赤道直径で地球の約四分の一の約3478km、重さも地球の約八十一分の一でとてもじゃないけどプレゼントには適さないのだと浪漫もへったくれも無い様な口調で断じて欲しかったんだ。
 
 何をしたいのだろうかと自問自答し、目の前に積み上げた為すべき用事から目を反らして独語文と睨めっこしている。
 多分、此の侭何も遣らずにいたら木曜日の朝に僕は後悔するんだ。