胡思乱想
 独りの部屋に帰って考え込みたくも泣きたくも無かったから二時間程本屋で立ち読みしてから帰宅したのにまだ僕は考えてしまう。
  
 部屋に帰った時に誰も居ないのが寂しくて帰るのが厭なのでは無いのです。
 逆に部屋に誰か居るかも知れ無い状態が厭なのです。
 
 小さい頃から僕が帰る部屋はいつもガランと静かで僕を出迎える人なんて居ませんでした。
 僕に鍵をくれる人は皆僕より帰宅が遅いか僕より忙しく、自分の部屋で無くても僕が帰る部屋で僕を出迎える人は居ませんでした。
 ですから、僕が独り住まいをしている筈の僕の部屋に帰るのが厭だと理由を寂しいからでは無いと否定するのは決して強がりでは無いのです。僕は誰も居ない部屋に帰り、独りで食事を摂るのには慣れているのですから。
 
 いつもより二時間遅く戻った部屋には誰も居ませんでした。しかし、部屋の細部を見て回るとあちこちに僕の記憶に無い物の移動や食品の消費の痕跡がありました。
 お願いだから僕が独りで考えられる時間と場所を奪わないで下さい。僕はまだ完全に選び切った訳では無いのです。