不要離開我
 近所の古墳跡を見てきた。殆ど壊されて石室の奥の石壁だけが残っている其の古墳跡は地図には載っておらず地元住民しか知らない忘れられた場所。

 髪の寝癖も直さずすっぴんの侭事務所に行った。此の前僕を26歳呼ばわりした野郎に「その格好だと26には見えんな、18位に見えるぞ。」と謂われた。褒めている心算なのだろうが根本的な処で間違っている。僕は26歳じゃ無いし、其の野郎より若い。

 事務所の何人かが僕を見て不快そうな表情をし、何人かが僕に頭を下げ作り笑いを浮べて挨拶をし、何人かは僕の姿を見て用事を思い出す振りをして逃げた。僕が如何いう風に思われているかよく判っているのだが、彼等の反応を見る度に虚しくなる。
 全て僕を悪者にして考えてくれて良い。何人かの給料が少し引かれたのも、君等の仕事の手抜きや備品の持ち帰りや客からの苦情が社長にばれたのもどうせ全部僕の所為だ。君等の雇主が君等を厳しく見る様になったのも僕が入れ知恵した所為だ。「そう考えたら楽なのなら幾らでもそう考えてくれ。」と僕に厭味を言ってきた野郎に言った。
 自分より何年も長く生きている筈の野郎共に一々細かい事を言うのはもううんざりだ。「仕事」の意味合いが僕と彼等では違う気がしてならない。
 「金貰ってやってるんじゃ無いのか?」「学生気分が抜け無いのか?」こんな事言いたくも言われたくも無い。
 僕はあくまでも唯の見張り役でしか無いのだから、是以上何も言いたく無いから必要な物を受け取って帰った。

 僕が見張り役を引き受けたのも自室に持ち帰って出来る作業を態々事務所でしていたのも全て一人で居たく無かったからだ。厭味を言う為じゃ無い。より深い孤独感を味わう為じゃ無い。