11歳、音が情景と重なる なかにし礼著「死こそわが友」.「知るを楽しむ 人生の歩き方」
音が情景と重なる なかにし礼著「死こそわが友」.「知るを楽しむ 人生の歩き方」

 音が情景と重なる なかにし礼著「死こそわが友」.「知るを楽しむ 人生の歩き方」.

 「赤い月」は自伝的戯曲の話.「翔べ、わが想いよ」は訳詩から作詩家に転ずる、転換期.

 「目の前に二度と戻れない満州の風景が現れた」.
 小学校5年生のときに聞いた、ベートーベン交響曲の「田園」からの、感動(37p)が紹介されている.
 楽章ごとに満州の田園風景が浮かんだのだという.「自分と他人とは違う」と、意識したのだそうで.
 音を聞いて、すぐさま情景と結合.本人は「自分と他人とはちがう」と思う.そこに才能の片鱗を示していると、申すべきか.

 3章、「黄昏に歌え」は「石狩挽歌」に代表、歌謡曲作詩の時代.
 4章、「黄金の刻」で、作詩家から作家へ.どこが異なる.
 作詩は陸上競技にたとえると短距離.作品は作曲家、歌手を通じて、人に聞かれる.
 作家は、マラソン.ヒラメキだけでは作品にならない.ヒラメキを一ひねり、思想に高める一ひねりが必要とする.かつ、作家は読者に、自ら直接、語りかける、と.

 二度にわたり、心臓の病いに襲われた、自らの健康.
 1945年8月9日まで、なに不自由なく過ごした日がソ連軍によって破綻.命からがら逃げながら、父の死、帰還後から判明した兄のいい加減さ.生涯そのものに、失うことなくなった身の燃焼を「死=わが友」にこめている、か.(日本放送出版協会 2006年10月)