高杉良著『小説・日本興業銀行〈第1部〉』
 高杉良著『小説・日本興業銀行〈第1部〉』。著者 : 企業小説。金融業界の政策過程を描く作品の第一部。

 1965年5月に行われた山一証券の破たん回避にむけた日銀特別融資(日銀法第25条発動か)から始まる。田中角榮蔵相の著名な政策判断のひとつとされる案件が紹介される。
 興銀出身の証券社長に対し、それゆえ関わりをもつ興銀社員の対応が注目されるが、それぞれが自身の入行時代に直面した昭和恐慌の体験が、随所で教訓として意識される点に読みどころがあるのかも。

 転じて、その1965年前後の興銀幹部たちが中堅時代に体験したことになるGHQによる興銀閉鎖危機回避に向けた企業内の対峙が描かれる。
 敗戦にいたる過程で政府の軍需産業に対する命令融資に対するGHQ
の評価にはじまり、合衆国との金融制度の相違、戦時責任をとう「追放」で経営陣は若返りを迫られ、昭和恐慌時に入所した社員は「中堅」ながら「経営の中枢に位置」しつつも、大蔵省、日銀、GHQ間を調整しながら興銀の安定継続に一喜一憂する点が明解。
 ある種、企業防衛の側面でもある。

 企業小説。金融領域では山崎豊子著『華麗なる一族』を読んだことが、遠い昔にないではない。
 当該書はある意味、中山素平なるヒトの伝記的位置づけかもしれない。五部作かの最初の巻を読んだのみである、が。