湯川豊著「循環する生命
湯川豊著「循環する生命」。写真家・星野道夫の文筆家としての面を語る。星野の文章をして「きわめて魅力にとんで」いるとする(115p)。それは「日本の文学の世界でもこれまでにはなかった種類のもので、独特な場所を占める」ともする。

 星野道夫の写真と文章は、「アラスカの自然やアラスカに生きる先住民の生き方を見るという全体の視線になっている」(116p)と書く。そのうえで「アラスカに生きる先住狩猟民は、世界をみる視点が、文明のなかに生息している我々とはまったくちがうということが提示されている」と、する。

 「生命の循環の中で個の生命をとらえる」。本稿では、星野道夫が共感した先住民の死生観を紹介する部分となっている。
 アサバスカン・インディアンの一家で行われたポトラッチ。ムースを撃って聖なる食べ物であるヘッドスープ(頭を煮たスープ)をつくり、皆が食べる。もちろん星野もたべるのだが、そこで星野は考えたという。≪生きる者と死す者、有機物と無機物。その境とは一体どこにあるのだろう。目の前のスープをすすれば、極北の森に生きたムースの身体は、ゆっくりと僕の中にしみこんでいく。その時、ぼくはムースになる≫(124p)。
 「一つの生命は独立してあるのではなくて、動物と人間の生命には相互交換性が存在している思想」(125p)に敬意を寄せている。

 「生命の相互交換性」。湯川は書く。医学の発達によって、平均寿命が二、三〇年延びたけれど、われわれ文明人は常に死を恐れ脅え続けているうえに、「死をどのように受容するかという思想を忘れ、健康を維持し寿命を延ばすことだけを考えている」(128p)、と。
 インディアンの「四は必ず来るものであり、それは大きな生命の循環の一つ」と受け入れるそれは、「文明人の死生観とは、大きな違いがあると思うのです」とする。

 「先住民の思想を日本語で伝えてくれる」(129p) とも紹介。星野道夫著『イニュニック【生命】』での紹介というべきか。湯川は文藝春秋社の編集部員を経てエッセイスト、『星野道夫著作全集』では全巻の解説を書いたとする。(『NHK知るを楽しむ 私のこだわり人物伝 星野道夫生命へのまなざし』 日本放送出版協会 2009年3月)。