ジェームス三木著『八代将軍 吉宗〈中〉』
 ジェームス三木著『八代将軍 吉宗〈中〉』。本書は、かつてNHKで放送された大河ドラマの原作として知られる。大河ドラマ自体は見ることを建前としていないが、本作は折々、視聴した記憶がある。
 
 中巻は吉宗将軍職を襲職する過程と、世に「享保改革」とされる幕政改革の諸施策の展開を示す。

 徳川政権にとって「中興の祖」たる位置づけが、吉宗にはあるかと思う。吉宗が幕閣を担うについて「幸運」「転がりこんだ」より、用意周到のうえに御三家の筆頭たる尾張をおさえて、紀伊が「奪取」したとする点が示される(「裏工作」 111p)。

 吉宗には幕政改革を通じ、政権の「悲壮なゴールキーパー」(309p)たるの評価。各地に根を張っていた独立大名を「封じて建てた」徳川の政権は、基盤とする農村と政権根拠地たる大都市・江戸をささえる商業との間で矛盾をかかえることになるのかも。
 「諸色高直米価廉直」(もろもろの消費物資は値上がり、しかし米価格は低落)に、幕府の金庫は底をつく。

 権力者像。自身が思いえがく姿と庶民の評価の違いに反問しながらも、しかし「尾張&紀伊」戦争という就任時の経過に発する対立の芽を発芽させつつ、「中巻」は結ばれるということ、か。(日本放送出版協会 1995年)。