柳澤桂子著『生命(いのち)の未来図』
 柳澤桂子著『生命(いのち)の未来図』。サイエンスライターというジャンルからの発言。

 「ヒト・ゲノム」の解読。正確には「全塩基配列順序の決定」とするらしいが(49p)、やはり難解。「まえがき」に進化の道筋を正確に理解うようだが、システムを理解すること自体が難しい。 

 遺伝子診断。障害をもつ胎児を出産するべきか、あきらめるべきか。間違いのないことは、福祉の充実(64p)とする。

 「私たちはなぜ死ぬのか」。その要因は老化とばかりおもっていたが、それは人間の一面であって、女王バチなどなかなか壮絶。栄養を特別に摂取するのでハタラキバチにくらべ10倍の長生きをする。
 その女王バチは一度だけ結婚飛行に出て、多くの雄バチと交わるも、交尾した雄バチは瞬時に死ぬのだそうで。
 その女王バチも体内にとりこんだ精子を使いはたすと、雄のハタラキバチに殺されてしまうのだ、そうで(101p)。

 衝撃的とも思うのは、著者自身の闘病体験。
 モルヒネも聞かなくなり、あとは薬物で意識の鎮静化をはかるしかないと、医師に宣言される。その後に、夫と息子がそれぞれ友人から「そういうときには抗うつ剤が効く」と、聞いてくる(121p)。
夫が博士で、科学者一家の掃討にインテリジェンスの高い一家であればこそ、得られた情報。
 庶民ならどうする?。精神科医師の領域に、担当医師にはそうした知識もなかったようで、医療のブラックボックス。強い痛みにともなう苦痛も解消されたという。

 このさき生命科学は、どこまで進化するのか?。著者も問うている。そのうえで、「東洋の思想を世界に知らせる義務がある」と結ぶ。