風が冷たくなりました 
お父さん、また秋が来て急に風が冷たくなりました。
秋が来る度に入社した会社を辞めて父の金融公庫の保証人に
なってくれた専務さんの会社に二人で通った事を思い出す。

あの時の父は一階で帳簿をつける事務をして、
私は二階で60人位いる事務員さん達の中で生産課の方が
辞めて足りない為、そこでの仕事を与えられた。

極貧の年老いた父の働く姿を見ると哀れで、
早くお仕事を辞めさせたいと思いつゝ

病弱な母を抱えてローンの支払いが間に合わず
72才まで働かせてしまった。

会社が終わる頃は日もとっぷりと暮れ、何時も午後5時半頃、
一階の父を迎えに行き、二人で自転車で自宅に帰った。

「私、前に居た会社に戻りたいの、こんな会社は直ぐに辞めたい。」
毎日のように父に文句を言っては困らせていたと思う、

父は自分の甲斐署の無さに何も言えず聞こえぬふりをして
笑いながら話を変えていた。

電車もバスも乗らずに駅裏通りから、
人通りの少ない暗い夜道を通る時は誰かが付いて来るようで
うすきみ悪かった。

結局、私は数カ月で父の会社を辞めて以前働いた会社に戻った。
父は文句一つ言わずに通勤していたが、専務さんになんと言ったのだろう。

私より、父はもっともっと辛さに耐えていた事を思うと、
事業に失敗して返済が終わっても、仕事を続けた父は立派だと思う。

今更、もっと優しくすれば良かったと暗い空を見上げれば、
涙がこぼれてならない。