あの秋の日
あの時、私は20才頃だったと思う。
高卒から大手会社に勤務していた私は急に退社をしなければ
ならない事情ができてしまった。

「個人金融に借りていたら返済も大変だから、金融公庫で借りなさい。」
父の友人で会社専務をしていた方に保証人になって頂き、
父は、利息の少ない金融公庫で借りて返済を始めた。

その条件として専務の会社に父と私が勤めるという話になっていた。
「嫌だわ、私は慣れた会社を辞めたくないわ。」
父に怒ったものの、年老いた父を救う方法は他に無い。

その会社は中小企業だが、仕事の内容が全く判らず、
好きな仕事でもなかった。
一ヶ月経過しても難しくて覚えられずに、会社に行く足取りも重くなる。

丁度、秋桜も咲いて秋も深まり日没が早かった道を
電車代を浮かせるため二人は自転車で通勤した。

暗い裏通りを帰る時、「お父さん、この道を通る時が恐くて嫌だわ!」
父に我儘を言うと、「大丈夫だよ!」父は明るく笑っていた。
「どうして私ばかりこんな思いをするのよ。」父を困らせていた。

前に勤務した賑やかな会社に戻りたくて仕方がなかった。
我儘を言いながらも、年老いて痩せた父の背中を見れば
友達のいる辞めた会社を忘れようと努力をした。

♪夕焼けこやけで日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る。。父が歌った時、
幼い頃に背負って貰った事を思い出し、
「お父さん、ごめんなさい。」哀れな父を見て心の中で詫びた。