名勝恥也
 慣れ無い靴と慣れ無いスーツ姿で冷や汗掻きながら慣れ無い場所へ出向いた途中、余り会いたく無い顔を見掛けました。
 僕の顔なんて相手は忘れてるだろうと、声も掛けずにその人の前を通り過ぎてしまいました。
 どうもあの人を京都で見掛ける度に、僕は思いっ切りあの人を避けてしまいます。どうせ僕の顔なんて覚えちゃいないだろうに。

 何故こんなに避けたくなるのかは自分でもよく判っています。
 「父が子」、そう思ってしまうから。
 紀貫之の息子の紀時文について順徳天皇が『八雲御抄』で「ただ父が子といふばかりなり」と触れているように、「あの高名な父親の子というだけ」だと思って見てしまうから。
 そう思ってしまう自分が厭で、それは僕にも当て嵌まるのだと思い知らされてしまうのも厭で、だから僕はあの人を避けたくなるのです。

 自分の弱い点をもっと直視すべきですね、僕は。