暉峻淑子著『豊かさへ もうひとつの道』
暉峻淑子著『豊かさへ もうひとつの道』 岩波新書に、『豊かさとは何か』、『豊かさの条件』などの著書があり、広く知られている著者。
 本書は『豊かさ・・・』シリーズの一角に位置するのかと。

 「公共とはお上のこと」と信じさせられている日本人の考えに対して、ドイツでは「テーブルの周りに多様な意見を持つ人々が集まって、ある共通なテーマについて、さまざまな角度から討議しあう場所のこと」(ハンナ・アーレント 13p)と、国柄の違いを随所に示す。

 子どもは、「言葉によって感情や考えを深め、経験を整理して、人格を豊かにしていきます」(19p)。
 
 日本は一〇〇年遅れて近代国家になったために、(略)富国強兵策を、日本の支配者たちは緊急一大事だと考えただろうと思うのです(36p)。

 同じ人間でありながら、人間とは呼べないような、「あってはならない貧困」をなくそうとする福祉国家実現への道は、第二次世界大戦後、急速に、世界各国の共通政策になって行きました(78p)。

 時の宰相にも辛口。
 金融、財政、労働問題、社会保障、教育、国土交通などの、どの省の大臣になったことがなかったためか、政策に弱く、具体的な政策によって国民をひきつける力を持っていませんでした(94p)、とも書く。
 人は、「官僚に対する劣等感」とも言うが、それなりに配慮した言い方であるようにも見せつつ、「愛国心とか教育基本法や憲法の改定など、国粋主義的イデオロギーを掲げたのだとおもいます」とする(同頁)。
 海外でいわれる前に、国内でもこうした議論が、前政権時代にあった、か。

 エッセイと講演の記録から作られるはずの本、手をくわえたために「ほとんどあたらしく書きおろしたものになりました」と、する(かもめ出版 2008年)。