寂しい坂道



夕焼けが湿りがちな雲の隙間から、
微かに太陽が遠慮しながら顔を出した。

連日の蒸し暑さに耐えきれず、
ブーゲンビリアも項垂れている。

何が起きても頑張ろうなんて力んでいたのに、
身体の力が抜けていくのは何故だろう。

いつも歩いて帰るはずの坂道が、
はるか遠くに感じてタクシーに乗る。

あれこれ引っ越しの片づけも終わり、
主人は昼食を食べに来れば必ず外出をし、
夕食迄は帰らない。

日中は殆ど家に居ない彼、
週に2~3回位外出する以外、家事をしている私。

買物は毎日のように行くので
近所の人達も少しは知っている。

知人に会えば笑いがこみ上げてきた。
私も満面の笑みで笑った。

南国は心地よい風が吹き、
私の七分袖のブラウスに風が通りすぎてゆく。

何処へ行っても坂道はつきもの、
今日も買物を腕に抱え坂道を登った。

途中で後ろを振り返れば車ばかり、
坂を上りアパートに来ても誰も居ない。

アパートは5階建でエレベーター付き、
隣の部屋に越して来た人の顔も知らない。

慣れないせいか寂しさだけが心を過る。
今月は彼が静岡に用事があって帰る予定。

1週間もあれば十分間に合うことが、
3週間くらい静岡に居るらしい。

晩秋の風は何となく寂しくて心細い。
住みなれない町だから?

涙が出そうになるくらい
晩秋独特のこの空気。

でも、泣く暇などないと思う。
一人になったら自分を鍛えよう。

自由時間がいっぱいあるはず、
行動範囲を広げ、この町に溶け込もう。