雨空
春なのに冬が戻ったような雨が降っている。
音も無くしとしと静かな雨なのに肌を突き刺す。

それでも樹木の茶色い若葉の上に
雨粒が水晶のように光って見える。

ざぶざぶと流れる川沿いを歩けば、
海へと向かう水の音が何時もより大きく聞こえた。

私の五感は全て眼に集まり、
山々を眺めたり隠れて見えぬ富士の方を見ていた。

山々の向こうに雪国が、
富士の向こうに東京が見えるような気がしていた。

でも何も見えない。
私は雨空に佇む一個の物体である事に気付いた。

今年も春がやってくると思っていたけれど、
東北関東大地震が起きて、今迄の春とは違う。

それでも、被災地も被災地ではない町にも春がきて欲しい。
東北関東の人達は凄く疲れている事は当然のこと、
他の地方の人達も疲れているのだから。