空蝉 
昨日、散歩道を歩いていたら
ひゅーっと強い風が身体にぶつかった。

日中は暑い暑いと言っても、この風は初秋の風。
吹く風に小さな秋を見つけた。

青い無花果を見ながら、もう直ぐ秋なんだと思い、
青臭い無花果にそっと顔を寄せれば少しずつ赤みを帯びていた。

蝉の声もほんの僅かになり、抜け殻ばかりが目につく。
蝉の抜け殻と言えば、紫式部の「空蝉」を思い出した。

紫式部は「源氏物語」で日本文学史においては絶対的な地位を
与えられている。世界最古の長編小説と称しても過大評価ではない。

「桐壺」「帚木」「空蝉」迄、目を通したがこの場合の「空蝉」は人妻である。
空蝉の、羽におく露の、木がくれて、しのびしのびに、濡るる袖かな。

夕べを待たずに死ぬ儚い蝉の命。その羽の上に置く露も日が当たれば消えてしまう。
木の葉の陰に隠れているからこその儚さ。
人目を忍んで涙して袖を濡らしている。

聡明な空蝉はしみじみと我が身を振り返り、その境遇に涙した。
空蝉の涙は、紫式部の涙であり、当時の姫達に共通する涙だと思う。

テレビで五木ひろしさんが影を慕いて♪を歌った時も空蝉を聞いた。
♪君故に、永き人生を霜枯れて、永遠に春見ぬ我がさだめ、
永ろうべきか空蝉の、儚き影よ、我が恋よ。

空蝉とは儚いもの、人の夜も何時かは必ず命果てる時がくるから、
私は、自分で楽しみを探して将来幸せだったと思いたい。

正反対の主人に自分の考えや意思を伝えれば喧嘩になるから、
誉めていても、この人と一緒に居るよりも、
一人暮らしをした方が心身共に楽になると思う日々が多い。