露天風呂
大雨の降る中、私は東京に帰る人達に、車が見えなくなるまで手を振っていた。
できるものなら、私も一緒に付いて行きたい、心でそう呟く反面、

物事は、焦ってはいけない、人生は長い、今の自分は家庭を持つ
主婦であり、我家へ帰らなければならないと我心に言い聞かせる。

行きたい温泉には時間が無くて行けなかったが、
昨夜の宿も悪くはないと、昨夜の楽しい団欒を思い出した。

大風呂のガラスを開ければ、その先には岩がごろごろした露天風呂、
お年寄りの人達が寝静まった深夜11時半頃、

私は、ひとりでのんびりと露天風呂に浸かり、語り合った会話を
思い出し、お酒も入っていた事も有り、歌を唄っていた。

部屋の片隅で眠る私の傍には、ピンク色の百合の花が花瓶に飾ってあり、
一晩中、百合独特の香りに包まれて眠る頃、雨が降ってきた。

自宅に戻り、人は皆、何らかの問題を抱え、人の面倒等みる余裕はない、
幸福そうに見える家庭も、病苦、金銭苦、人間関係、子供の問題等を抱え、

其れでも頑張って生活を続けている。生きる事は頑張る事、そして
生きる事は楽しむ事の繰り返しが出来れば、幸福だと思う。

今は、雨も小降りになり、青々とした田園を見ながら
私の脳裏は、昨夜から今朝の別れる迄の余韻がまだ残っている。