t.A.T.u. にみる Trevor Horn の芸術
耳を澄まして聴いてみるとわかること。

vocal に対してビート(楽器の音の刻み)を 100分の 1、2、せいぜい3秒後ろに、又は前へ 100分の 1秒程度ずらしている。
例外的に前を多用しているのはパーカッションである。(もっともこれは、Since Yesterday などユーロ・ディスコでは昔からよく使われているが)

簡単にいえば、vocal と vocal の間を音で埋め、音と音の間をさらに別の楽器の音で埋め、さらに各種楽器の音で埋めている。
音のピークをずらすことによって、濁らない、軽快で、抜けが良い音が維持でき、これだけ音を詰め込んでいるのによく声が聴こえる。

80s においては 100分の 1秒のオーダーだった。
しかし、t.A.T.u. では、1000分の 1秒のオーダーでいじっている。
Video Killed the Radio Star ではまだ全然行われていない、、

t.A.T.u. で行われていることは、全楽器及び vocal を微妙にずらし、しかも同じ楽器でも、数音ずつ、ずらす time を絶えず変えていて、その結果ワン・パターンに陥らず、これだけ詰め込みながら飽和せず、全楽器を並列的に聴かせることに成功している。
これは、めちゃめちゃ手間をかけて全音を 1000分の 1秒単位でいじって並べた、一つの究極の完成形、Trevor Horn の芸術、職人芸の進化の、一つの完成形、生き残りを賭けた姿である。

次は 10000分の 1秒という人間の可聴能力を超えた争いになるのかもしれない。
もっとも、聴けば聴くほどすでに 10000分の 1秒レベルでいじっているような気さえしてくる、、

マスキング効果や右耳と左耳での音像位置の調整、一音一音の立ち上がり、リバーブのかけかたとずらす秒数の調整、例えば同じ timing できこえるように、あるいはずれてきこえるように、変幻自在である。

戦略として、人間の耳、可聴能力の限界に挑み、full power でユーロ・ディスコの集大成を成し遂げた。
楽器、vocal を 鳴らせる 技は特筆に値いする。

音域についても、各楽器、vocal とも帯域を限定することにより、重ねても聴き分け可能にしている。
2人の vocal さえ時にはずらし、エコー的要素にも使っている。
単純なバックビートではない。

欠点があるとすれば、ずらし効果によりややもっちゃりしてしまうことである。

音楽におけるサブリミナル効果ともいえる、切り刻みの技術。。


とはいえ、メロディラインにロシアや北欧の薫りを感じるのは、私だけであろうか。