立ち読みをして、戻して、別の本を読んで、戻して、先の本を買ってしまう。

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  最初の質問

今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。雲はどんなかたちをしていましたか。風はどんな匂いがしましたか。あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。「ありがとう」という言葉を、今日、あなたは口にしましたか。
 窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。雨の雫をいっぱい溜めたクモの巣を見たことがありますか。樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ちどまったことがありますか。街路樹の木の名を知っていますか。樹木を友人だと考えたことがありますか。
 このまえ、川を見つめたのはいつでしたか。砂のうえに坐ったのは、草のうえに坐ったのはいつでしたか。「うつくしい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。好きな花を七つ、あげられますか。あなたにとって「わたしたち」というのは、誰ですか。
 夜明け前に啼きかわす鳥の声を聴いたことがありますか。ゆっくりと暮れてゆく西の空に祈ったことがありますか。何歳のときのじぶんが好きですか。上手に歳をとることができるとおもいますか。世界という言葉で、まずおもいえがく風景はどんな風景ですか。
 いまあなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聴こえますか。沈黙はどんな音がしますか。じっと目をつぶる。すると、何が見えてきますか。問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっちですか。これだけはしないと、心に決めていることがありますか。
 いちばんしたいことは何ですか。人生の材料は何だとおもいますか。あなたにとって、あるいはあなたの知らない人びと、あなたを知らない人びとにとって、幸福って何だと思いますか。時代は言葉をないがしろにしている――あなたは言葉を信じていますか。

(長田弘詩集、ハルキ文庫)

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本当に心から申し訳ないと思うのだが、ここからは私の文なので、厭な方は本屋へ。

薔薇園へ寄る。ぎりぎりいっぱいな時期、だが赤い薔薇はちょうど満開。そぞろ歩き。大きな木の下をそよぐ風。

ちょっと迷いつつ、霞み草が化けて曼陀羅になった絵(…ちょっと違う)を観る。吸い込まれてみたり。空海やら宮本武蔵やら、北朝鮮にペルシャ絨毯、その他。

どなたか代わりに秋野不矩展、観てきて下さい。創れる時間にも、限界があります。