「奇跡の音楽」がある。
例えば、元ちとせのワダツミの木。
あの曲は、元ちとせのあの声と唄い方に、あのメロディラインとアレンジがあって初めて成立する。
元ちとせ自身が既に peculiar な才能を身に付けている以上、彼女が今後生き残れるかは、まわりの楽曲製作者達が彼女の資質に見合う、あるいはその魅力を増進させる、ワダツミの木と同等かそれ以上の作品をある程度定期的に供給できるかどうかに、100%負っている。
・・・普通の新人歌手を、パッとオリコン1位に送り込む方が、遥かにたやすいのではないか。
そういう意味で、元ちとせのワダツミの木は、「奇跡の音楽」である。

「一発屋」とよばれる歌手のその曲は、胸に迫り、時に切ない。
歌手の歩く道と、作曲家、作詞家、その他スタッフ達の進む方向、そして時代の大きなうねりが、ふっと、偶然のように交錯する、その瞬間を、どうして笑えよう。

奇跡は、尊く、かけがえのないものである。
そんな出会いの瞬間を、いつも、待ち望んでいる気がする。