「垂涎の一品」
<<日本>>--川越--


私がこの蚤の市で、期待して探していた品があった。

それは刀の鍔である。

我が家には、鎌倉時代の古刀に属する、細身の大刀がある。

我が家で、先祖代々受け継がれて来た古物と言えば、これだけである。

未だに刃こぼれも錆びも無いが、残念ながら日本が敗戦して、米軍進駐の時に、全て家で所有している刀剣類を供出せよとのお達しで、一旦は手元を離れたのである。

しかし当時の警察署長が、これは勿体無い一振りだと言う事で、保管して我が家に戻してくれたのだった。

刀剣所有許可証と一緒に戻って来たのは良かったが、刀の鍔と小柄が、金が入っていたためか、無くなっていた。

だから完全な形にするには、鍔や小柄を揃えなければならないのだ。

そこでこの古物商で展示されている、向かって手前右から奥の3番目にある鍔が目に入った。

正に金が入った一品で有るが、定価が145000-円とある。

交渉次第でいくらになるか分からぬが、そんな大金の持ち合わせも無いし、店主に期待されても気の毒なので、見るだけで済ませた。

しかしいつの日か、この一振りを完全に復元させて、次の代に受け継いで行きたいと思っている。